秋山 演亮

千葉工業大学惑星探査研究センター主席研究員
和歌山大学協働教育センター教授
内閣府宇宙開発戦略推進事務局宇宙政策委員会専門委員
目次

・総合的な視野を持つアーキテクトの育成を目指して

・将来は宇宙産業をはじめ多彩な分野での活躍が可能に

・宇宙工学のプロジェクトで身につけられる力とは

総合的な視野を持つ
アーキテクトの育成を目指して

千葉工業大学では「高度技術者育成プログラム」を2021年度よりスタートしています。このプログラムは、人工衛星の設計・製造・運用プロジェクトを通じて、宇宙産業のみならず現代のあらゆる産業分野で求められているアーキテクト(システム人材)を育成することを目的としています。

アーキテクトとは、「さまざまな分野の複雑な技術・システムを組み合わせながら、総合的な視点を持ってアウトプットができる人」のことを意味します。自動車を例に挙げれば、かつては主に機械工学の技術があれば製造できましたが、現在はカーナビゲーションシステムにはGPSを搭載、自動運転システムにはAIを搭載というように、いくつもの複雑な技術・システムを組み合わせなければ完成させることができません。複雑化する「ものづくり」においては、高度な専門性を持つ技術者の果たす役割がより重要になってきています。

「高度技術者育成プログラム」では、2030年度までの10年間で最大9機の人工衛星の設計・製造・運用を計画しており、2022年には第1号となる人工衛星を打ち上げる予定です。10年間にわたって切れ目なくプロジェクトを実施することで、本学の学生・大学院生に技術とノウハウを蓄積すると同時に、教員側にも教育手法を蓄積していくことを目指しています。

将来は宇宙産業をはじめ
多彩な分野での活躍が可能に

アーキテクトの需要は世界規模で高まっており、その素養を身につけた高度技術者はさまざまな分野で活躍することが可能です。なかでも世界の市場規模が約37兆円に上る宇宙産業は急成長を遂げている分野であり、2050年には約83兆円、宇宙関連ビジネスまで含めると約200兆円の巨大市場になることが予測されています。日本の宇宙産業の市場規模も2050年には約4兆円という政府目標が掲げられており、10万人を超える人材が必要となる見通しです。

  • 2050年における宇宙ビジネス市場規模

  • 日本の宇宙関連産業市場予測

今後、宇宙開発が進んで宇宙に滞在する人が増えれば、宇宙を舞台とするさまざまなビジネスが誕生する可能性があります。本学の卒業生が携わっているベンチャー企業の取り組みに、IoT通信衛星に京都の醍醐寺の大日如来像などを搭載する「宇宙寺院」のプロジェクトがありますが、これも宇宙ビジネスの一つの形だといえます。今後、このような新たなビジネスの展開に向けて、高度技術者の需要は世界規模でますます高まっていくことでしょう。

宇宙工学のプロジェクトで
身につけられる力とは

宇宙工学の領域では、以前からさまざまな分野の高度技術者を集めたプロジェクトを実施してきたため、アーキテクトの育成に関しては一日の長があります。例えば、1960~70年代にNASAが宇宙船アポロによる月面着陸を目指したアポロ計画は、総勢およそ1万人の高度技術者の力を結集したプロジェクトでした。これは、古代エジプトのピラミッド建造時に見られたような、ごく一握りの専門家の指示に多数の労働者が従うといったプロジェクト管理のあり方とは対極に位置するものだといえます。アポロ計画のようなマネジメントを行う場合、個々の技術者が現場で判断しなければならないことも数多く生じるため、技術者には専門性とともに決断力や判断力も求められます。

アーキテクトとしての素養や決断力・判断力を身につけるには、プロジェクトに参加する経験を積むことが有効です。宇宙工学はさまざまな技術・システムを組み合わせる総合工学であるため、宇宙工学のプロジェクトに参加すれば、決断力・判断力を兼ね備えたアーキテクトとして活躍するための素養を身につけることができます。プロジェクトに参加し、仲間と協働する中で得られる知識・技術・マネジメント能力などは、将来どのような分野に進んだとしても活かすことができるでしょう。